(訳)
[ザ・プロフェッショナル 現代の歯科クリニックを変革する]
30代前半の日本人歯科医師が自らのクリニックをオープンし、スタッフを雇用する等運営して行く事を想像してみてください。日本には全国に68,000を超える歯科クリニックがあり、明らかに過密状態です。クリニックオープンの為に必要な準備とは何でしょうか?
医療法人RAISE理事長兼デンタルクリニックK院長の齊藤圭氏は、他業種、例えばヘアサロン業界等に目を向ける事も必要と話しています。インタビュー(東京)において同氏は次のように語ってくれました。
「競争の中で生き残る為には、歯科医師は患者様の歯を治療する技術以外の何かを考えていく必要があると思います。」
「歯科業界とヘアサロン業界には多くの共通項があります。共通項というのは、例えば職業としてのライフスパン、職務環境などに加え、歯科クリニックとヘアサロンは施設のデザイン構造さえも似ているとうことです。」
「美容師としてヘアサロンで活躍出来るのはおおよそ40歳位までと聞きます。その後は、ヘアサロン経営等裏方に専念しなければならないそうです。あまり知られていませんがこの事は歯科業界における歯科医師も同様でベストな状態で患者様に処置を提供出来る年齢にも上限があり、その後は経営にまわる等現場を退く必要があります。」
「歯科クリニックの治療用椅子とヘアサロンの施術用椅子の数、配置など、職場のデザインも似ていますね。また職員全員の業務のオペレーション、お客様へのアプローチ方法等似ている点は多数あります。」
齊藤氏は歯科医師としては異色の経歴を持つ人物です。歯学部卒業後、一時期法医学者を目指しました。しかし30歳を迎えたとき、再び歯科医師となるべくクリニックで技術を磨き、自らのクリニックをオープンするための経験を積みます。
5年後、同氏は格安の廃業クリニックを購入しデンタルクリニックKのオープンに漕ぎ着けました。40歳を過ぎてからは歯科医師として治療現場から離れ、この3年ほどはクリニック経営にほぼ専念しているとのことです。歯科医師としての仕事をしながら、同氏は新しいデンタルクリニックについて、独自の理念と手法を構築しました。ヘアサロン業界の話は、齊藤氏の理念の基本姿勢である、他業界からの学びの一例です。
新しいデンタルクリニックをオープンする一つのユニークな考え方として、同氏は、可能であれば機材や環境が揃った廃業クリニックの購入を提案しています。これは日本では「居抜き」と呼ばれるビジネスの開始方法です。装備品一式を備えた店舗購入は、レストランやバーをオープンする際の、代表的ビジネスモデルと言えるでしょう。
日本歯科医師会によると、日本の歯科クリニックの数は2013年までの20年間において、1993年の55,906から2013年の68,701へと、緩やかに増えています。しかしこの数字は、2014年には68,592へと減少を見せます。齊藤氏によるとこの最大の要因は、クリニックオーナーの歯科医師の年齢によるリタイアよりも、経営難等の財政問題を抱えて廃業に追い込まれているからとのことです。
「もし歯科クリニックを一からオープンするとすれば、一般的に5千万円以上の資金が必要となります。この初期投資の多くはローンを組むこととなり、クリニックオープン後も多くの場合、この財務問題が重くのしかかります。しかし、居抜きであれば、一からのクリニックオープンに比べて遥かに安く仕上がります。歯科クリニックの廃業の数の増加は、資金は無いが若く有能な歯科医師達にとって、格安で自分のクリニックをオープンする機会をより多く提供してくれているとも言えるわけです。」
しかし居抜きスタイルでオープンしたとしても、スタッフの雇用や、レイアウト・インテリアの変更は必須でそこにある程度の投資が必要です。
「これは、その地域へ新たな院長の所信表明のようなものに当たるのかもしれません。改築を行う、方針を表現する、ことで、地域住民の方々へ自らのスタンスや考え方を示すことは必ず必要で、それ無しでは前廃業クリニックオーナー同様廃業へと追い込まれてしまいます。そこへの投資は妥協無くする必要はありますが、それでも新規で一からオープンする事を考えればローコストとなります。」
初期投資に加えて、新クリニックのオーナーに求められるのは、治療スキルだけではありません。経営知識や、スタッフを雇用し育てるマネジメントスキルも必要です。
「デンタルクリニックKは、自らのクリニックオープンを目指す歯科医師のためのトレーニング場として機能しています。現在5名の歯科医師が在籍していますが、彼らは上述のような職務を任され、技術を極める等という上辺の事では無く本当の意味でのオープンに必要なスキルを日々磨いています。」
「歯科クリニックの業務で歯科医師、特に院長が患者様に提供出来るサービスは実は3割程しかなく、他七割は受付や歯科助手等スタッフの仕事です。彼らの理解度を高め成長させることが私の仕事で、それが医院の発展にも繋がります。」(齊藤氏)
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